■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

結婚しようよ  1972年頃
   作詞・作曲:吉田拓郎 編曲:宮川泰

  

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★ ★★★★ ★★★★

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

吉田拓郎自作自演。みんなが知ってる歌ってる歌。毒気のない明るい爽やかな歌です。
当時のフォークソングって体制に刃向かうとかいった思想的なのが多かったのですが、
この曲は(言い方は悪いが)女子供向きというか、反戦なんかより愛情だ~いという
堕落(?)のしかたが面白かったです。
なにかというとよく人が集まるとこの歌を歌うので耳タコで飽き飽きしておりました。
蒸留水を飲んでいるように味もそっけもなく毒にも薬にもならない味気ない歌だなあ
とか思っていたので、好きでも嫌いでもなく、興味すら湧かない歌でもありました。

なんでザ・ピーナッツがこんなつまらん歌をカバーするんだろうと不満たらたらで
CDを聴いてみたのですが、あれまあ、けっこういけるじゃありませぬか。(笑)

ビブラフォン(鉄琴)とギターが主役のほんとに素朴な伴奏であり、学校の音楽室に
あるような楽器しか使ってないのです。そこにピーナッツの二重奏が加わるだけ。
これだけでちゃんと聴かせてしまうのだから、ピーナッツって存在感ありますよ。
吉田拓郎さんの詩にはたぶん、字面には直接現れないけれど、何らかのメッセージが
こめられているんだと思うのです。平和ってのが一番いいんだよ、みたいなことが。
だけど、ピーナッツの歌声は歌詞の軽やかさだけが純粋に表れるだけのようです。
完全に明るい唱歌みたいになっていて深い意味など関係ないという雰囲気を感じます。

数えるのが面倒なくらいにザ・ピーナッツはポップスだけじゃなくて歌謡曲カバーを
た~くさんレコーディングしたんだな~と驚くばかりです。(民謡もいっぱいだ)
それだけザ・ピーナッツとしての歌唱の意義にスタッフも自信があったのでしょう。
たしかに何を歌ってもピーナッツならではという面白さが聴けるのです。

不思議なのは、何も変なクセがないのに? というところがあって目先の工夫などは
何もないのです。まあ、ふつうに歌っているだけみたいなところがあります。
日本語はこれ以上明解な発声はないだろうと思えるほどにはきはきしています。
また、テンポや音程も正確で、まったく譜面から飛び出すことはありません。
音楽の先生がお手本に生徒に聴かせてやってもいいくらい素直なものなのです。
なのにやっぱり落花生風味というものがあるのです。

上手く歌うという目的のためのベクトルがザ・ピーナッツの場合は聴かせてやろうと
いうのじゃなくて自分達の最も良い状態の歌唱をしようとしているように思えます。
どこか流行歌手らしからぬところがあるようにも思えます。
はっきり言って邪念がない。これぞ、無我の境地。(笑)
この透明感がたまらなくいいのです。曲の素性がこれだから引き立つのです。
「結婚しようよ」って、こんないい歌だったっけ? そう思ってしまいそうです。

私の希望はこういう曲のカバーじゃなくてラテン・スタンダード・ナンバーなんかの
レコーディングなど、もっと他にやって欲しかった曲が山程あるとは思うのです。
しかし、これはレコード向けじゃなく、カーステレオ用の8トラック音楽テープです。
当時はなかなか若い人は車を簡単に買えなかったと思います。
カーステレオを積んでいるような車は金持ちのオッサンが多かったのじゃないかしら。
よく北島三郎とか八代亜紀なんかの歌がかかっていたのではなかったか?
そういう年代層にターゲットを置いた結果、歌謡曲カバーシリーズとなったのかも。

今思うと随分と妙な録音がいっぱい残ったものだという感じは否めませんが、これも
バラエティに富んだレパートリーの一部として楽しめるのも幸せだな~とも思います。
一曲だけ取りあげて聴くほどの凄みはありませんが、トータルアルバムとして聴けば
なかなかの聴きものであり、楽しめることうけあいです。