スーパー・アナログ・ディスクで聴くザ・ピーナッツ

☆ピーナッツ・ホリデー☆のアンカーさんから素敵なレコードを
頂きました。これを是非、ご紹介したいと思います。

キング・レコードのスーパー・アナログ・ディスク・シリーズは
オーディオ雑誌でも取り上げられて、評判のシリーズでした。
しかし、その選曲はクラシックやジャズなどの高尚なものに限られ、
親しみやすい歌謡曲やポップスは蚊屋の外であって、これは一種の
差別じゃなかろうか(笑)などと思っていました。

作る側は差別する意識ではなくて、そういう流行曲を最高の音質で
聴きたいというニーズは余り無いのではないかと思ったのでしょう。
でも世の中には(私のように)色んな人が居ます。
歌謡曲もという企画は第一家庭電器という企業が発案したようです。
こういう一定量の発注があればレコード会社も踏み切れるのでしょう。

マスター・テープには一体、どれ程の高品質の音が入っているのか。
それを最高の品質でアナログ・レコード化したら、どうなるのか。
これは、そういう夢の一杯に詰まったレコードです。

大変に立派な解説書も付いています。
その内容から、まず、ご紹介しましょう。

 日頃は第一家庭電器をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
 今春、制作したVIP・CD「FemaleVocalIn MyHeart」は、大変好評を
いただいております。
 そのVIP・CDを企画する際に、オリジナルのアナログ・マスターを
試聴したのですが、過去、ラジオを通して聴きなじんだシングル蟹に比べ、
はるかに素晴らしく、感動的でした。しかしそれが、デジタル化され、
CDとなったものを聴いて見ると、当然予想されたこととはいえ、かなりの
情報量がダウンしており、CDだけ聴く限りでは、それなりにスッキリした音と、
メロディに懐しさを覚えるのですが、あのアナログ・マスターを聴いた時の、
熱い感動が稀薄になっているのは否めない事実です。
 最近、アナログ名盤のCD化が、急ピッチで進んでいますが、アナログ・マス
ターをそのまま細工せず、デジタル化してCDとした場合、アナログ・マスターに
忠実な音とはならないためか、デジタル化の際、各種の音質調整等が施される
ことが少なく無いようです。
 良くアナログ初期のレコードが、CD化されて、著しくその音が改善されたと
いう話しを聴きますが、これは、その初期のレコードが、当時のレコード製造設備
や技術が未熟であったり、レコード化が注意探く丁寧に行われなかった等の原因に
より、アナログ・マスターとは似ても似つかない貧相なレコードとなってしまって
いるからに他なりません。その後、きちんとした状態で、再発されたLPは、かなり
アナログ・マスターに近い場合が多く、これと、CD化されたものを比較すると、
アナログ再生装置の水準がある程度以上であれば、LPの方が優れていると感じる
ケースが多いと思います。
 又、アナログ・レコードは、減ると良くいわれますが、確かに超高城については、
使用により、若干減衰するようですし、手入が悪いと雑音が増加したり、傷がつく
ことがありますが、少くとも30年位は、充分使用に耐え得る思いの外丈夫なものです。
CDは、むしろスリ傷により、エラーが多くなり音そのものに変化をきたしたり、
傷の場所と形状によっては、全く音が出なくなることもあります。
又、アルミの腐食の問題も完全にクリアーされたわけでも無いようで、むしろCDは、
その扱いと保存を、より慎重にする必要があるのではないでしょうか。

 ところで、本アルバムは、先のVIP・CDの22名のアーティストの中から、倍賞千恵子、
伊東ゆかり、ザ・ピーナッツ、岸洋子の四人を選び、それぞれ、誰でもご存知の大ヒット
曲を3曲ずつ、12曲選曲いたしました。
 過去のDAMシリーズの中で、大ヒットした流行歌を取り上げたのは、これが初めてで
すし、キングのザ・スーパー・アナログ・ディスクにもこの種のものは全くありません。
 この12曲(現在、LPの市販盤は全て廃盤)を、オリジナル・マスターに一番近い状態
−−すなわち、過去発売されたどのLP、EPよりも最高の、DAM・キング・ザ・スーパー
・アナログ・ディスク永久保存盤として発表できたことは、大変意義探く、光栄なことです。
 当時の流行歌の録音傾向として、特にバックの編成、音質、バランスに問題がある曲も
少からずありますが、ボーカルは、4人の熱唱がリアルな臨場感で収録されていて、素晴
らしいの一語につきます。
 この、全部、条件の異なる、シングル・オリジナル・マスターを6曲ずつ接なぎあわせ
た状態で、かつ、ザ・スーパー・アナログ・ディスクの条件でカッティングするという、
至難なことを、実現していただいた、高和元彦プロデューサーと、牧野晃マスタリング・
エンジニアのチームには心から感謝申し上げます。又選曲等にあたって協力をいただいた
関正明氏を始め、キングレコード、日本ビクター及び関係各位に、あわせて厚くお礼
申し上げます。
 今後、アナログ・ディスクの制作は、極めて困難が予想されますが、次回、11月には
DAM第2弾ヨーロッパ録音(最新アナログ録音)を、ヨーロッパ・プレスのアナログ・デ
イスクでお届けするべく、準備中ですので、全員の皆様の更に一層のご支援のほど、お願
い申し上げます。
        DAM推進委員会

10数年の伝統をもつDAMスーパー・アナログ・ディスクのシリーズに、当社の女性ヴ
オーカルが初めて登場したのは昨年(1989年)11月の「白鳥英美子/美しく青きドナウ」
(DOR−0167)でしたが、これは1988年に主にウィーンで録音された新しい1枚でした。
 それに村し今凹は、キングを代表するベテラン女性歌手たちの、往年の大ヒット曲を集
めた懐しくも楽しいアルバムか作られました(1990年6月)。これらは1960年代を中心に
録音され、またヒットした曲で全部で12曲ありますが、そのうち半分以上は、日本レコード
大賞を受賞しております。
 ご存知の方も多いと思いますが、これらの曲は、当初まずシングル盤として録音されま
した。そのあとで、ヒット曲をメーンにしてLPが制作される場合がほとんどでした。
つまり、初めからLP企画として連続して録音されるケースは稀でした。(その点で前回の
白鳥のアルバム制作とは異なります。)
 今回のアルバムでは、さらにその中からのヒット曲をピック・アップして、各歌手3曲
ずつを集めて編集しておりますので、それぞれの曲のマスター・テープの音質やバランス
などが多少違うのは止むを得ないことをご理解いただきたいと存じます。担当デイレター、
ミクサー、録音日、録音場所、伴奏オーケストラなども夫々に異なっております。
 こうしたケースのカッティングでは、通常トーン・イクォライザーやフィルターなどを
使って、アルバム全体の音質やバランスをある程度補正する方法がとられます。
 しかし、「スーパー・アナログ・ディスク」の場合は、このような補正手段は一切使われ
ず、ダイレクト・コネクティングされますので、マスター・テープの音をストレートに音
溝にカッティングしていることは申し上げるまでもありません。それは可能な限り高水準
な音の鮮度を大切にすることを第一に考えているからに他なりません。そのためには個々
の曲のオリジナル・アナログ・テープそのものを多数のリールから抜き出して、このDAM
レコードのための曲順につなぎ変えてカッティング用の特別リールを作りました。つまり、
オリジナルからダビングしたテープは一切使用しておりません。
 次に申し上げたいことは、最近の録音はマルチ・トラック(例えば24チャンネル)に各
楽器の音を収録し、ミックス・ダウンに際しては種々のエフェタターによって音作りをす
るのが通例となっております。しかし、この当時はそれらの手投も少なく、よりシンプル
に録音しておりますので、過度に加工された音色や歪などがほとんど感じられない素直な
音であることです。また、そういう音源だからこそ、ストレートなカッティングが可能
だったともいえましょう。
前にも触れましたが、過去に発売された、これらのヒット曲が、シングル盤(独特の音作
りでカッティング)その後のLP、あるいは再発売CDなどと比較しますと、「スーパー・
アナログ・ディスク」の究極のクォリティーで聴くキングの代表歌手たちのヒット曲は、
20余年を経た今日、恐らく初めて最高の音質で皆様にお楽しみいただけるのではないかと
自負しております。また、それ故に保存整としての意味もあるかと存じます。
                (1990.3)

●制作意図

 すべてアナログ録音のマスター・テープを使用している(スーパー・アナログ・ディスク)は、
アナログの持つ独自の魅力を可能な限り追求した特別製のハイ・クォリティー・ディスクです。
 レコードの主流はコンパクト・ディスクに移り、そのCDにもいくつかの長所があることは
ご存知の通りです。
 しかし、長年にわたり多くのノウ・ハウを蓄積してきたアナログ・ディスク(AD)には、
先端技術の産物CDでも得られない、物理特性を越えた音楽の世界が存在していることは既成の
事実です。私たちはそのアナログ・オーディオのソフト技術をさらに深く研究・開発し、
音を磨きつづけております。
 〈スーパー・アナログ・ディスク)は、すでに国内はもとより、広く欧米にも知られるところと
なり、高い評価が与えられておけます。
 音楽とオーディオを本当の意味で理解し愛する皆様に聴いていただくことを目標に、(ス
ーパー・アナログ・ディスタ〉は制作されております。

●くスーパー・アナ白グ・ディスク〉のどこがすぐれているか

(1)周波数帯域:このために使われたカッテイング・システムは10Hzから50kHzの非常
  に広い帯域をもっております。したがって、ここに選ばれたマスター・テープの持つ帯域は
  最大限に収められています。
  その充実した重低音から、豊かな倍音を含む超高城までが再現されております。
(2)トランジェント特性:音の明快な立上りからは、瞬発力とスピード感のある迫力が得られ、
  また卓越した解像度が生み出されています。
(3)ダイナミック・レンジ:技術的にはノイズ・レベルから最大レベルまでの広さを指し
  ますが、ここでは音楽上のピアニシモからフォルティシモまでの聴感上のエネルギー感
  (ダイナミックス)の幅の広さをより大切にしました。たとえばフォルティシモでは
  アナログ独特の緊張度の高い音量感が聴かれます。
(4)低歪率:清澄な透明感と混濁のない音質は、解像度をよくし、いくらボリュームを上げて
  再生しても決して耳ざわりな音にはならないはずです。
(5)情報密度:アナログ独特のなめらかな音質により、楽器や声のもつキメ細かい粒子や
  肌ざわりが得られ、AD本来の人間性に基づいた持味を十分に再現しております。そこから
  導かれる演奏家の微妙な表情の変化や音楽に求める深い感動は、ハード優先のオーディオ的
  快感とは本質的に異なるものです。

●くスーパー・アナログ・ディスク〉の制作工程

(1)ダイレクト・コネクティング:再生用テープレコーダーのヘッド・アンプから、カッ
  ティング用のパワー・アンプまでをダイレクトに接続し、その間のたとえばグラフィック・
  イクォライザー、フィルター、リミッターなどは一切介在させておりません(ブロック図
  参照)。その結果、マスター・テープの信号をフラットにカッター・ヘッドヘ伝送することが
  でき、音質劣化やトランジェント特性は著しく改善され、ナチュラルで鮮度の高い音が得
  られております。
  そのため、テープに含まれている多少のヒスやハム・ノイズ、暗騒音(特に重低域)、指
  揮者の足音などもそのまま記録されていることを予めおことわりしておきます(これは周
  波数帯城が広いためであり、また技術的にも一切修正していないからです)。
(2)ハーフ・スピード・カッティング:テープとカッティングの速度をそれぞれ1/2に落と
  してゆっくり切込むことによって、音溝の精密度を高め、広大な周波数帯域によって情報
  量を最大に収録しています。
  この技術は高度の熟練を要し、特に(スーパー・アナログ・ディスク)では溝の幅も.最
  大280から最小30ミクロンと広く深くカッティングされており、(通常は80〜30ミクロン)、
  マキシマム・レベルがいかに高いかを証明しております。
(3)管球式アンプ:ハイ・パワー(実効出力、300W+300W)のカッティング・アンプと、
  ヘッド・アンプはすべて当社の技術陣が開発した特別製の管球式を採用しています。これ
  により、余裕のある容量と、アナログ・サウンドの豊かで温かな音楽性を十二分に伝えて
  おります。
(4)超多重量盤:約180grの重さをもっております。これは通常レコードと比べてさらに
  60%以上の重さとなります。それによって、前述した深い音溝にも対応できるとともに、
  レコード演奏時の盤の共振を大幅に減少させます。特に大きな音量レベルのときや低音城
  を安定させるために大変効果があります。
(5)高品質材料:極めで慎重なメッキ工程による金属原盤の製造と相まって、厳選された
  プレス原料と特殊な原料加工技術によって、ラッカ−・マスターに収録きれた情報に非常
  に近い音質が得られ、SN比も改善されております。

 このように〔スーパー・アナログ・ディスク〕は、通常のADとは別の製造ラインによる一種の
「手作り」のレコードであります。

●再生上のご注意
(1)カートリッジとプレーヤー・システム:針先の摩耗やホコリの附着には特にご注意下さい。
  できればレコード片面ごとに針先のクリーニングをおすすめします。
  また、針圧は適正針圧か少し重くして下さい。
(2)盤面のホコリ:音溝が深いため、溝の底にホコリが入り込まないような方法で除去し
  て下さい。かえってノイズが増えることがあります。
(3)アンプ:前におことわりしましたように、ヒスや低城等のノイズは、コントロール・ア
  ンプにおいて調整して下きい。また、メイン・アンプは出力の大きい余硲のあるものほど
  ダィナミックな効果が発揮されます。
    ×        ×        ×
 ハイ・エンド・ユーザーを始め、ある程度のグレードの再生装置をお持ちのレコード・
ファンの中に、CDの再生を体験された上でもなお、ADの音の魅力を再認識される傾向
がみられます。そうした皆様に、アナログのすぐれたプログラム・ソースとしてこの(ス
ーパー・アナログ・ディスク〉を十二分にお楽しみいただけることを念願する次第です。
        (’90.7 高和元彦)

さよならはダンスの後に

作詞:横井弘 作曲/編曲:小川寛興

■曲白解睨(野村耕三)
 美しいメロディー・メーカーとして、歌謡曲はもと
より、映画・テレビ・舞台などと幅広い活動をしてい
る服部良一門下の作曲者小川寛興の曲に、「あざみの
歌」以来、数々の抒情的な歌謡詩でヒットを生み出し
ている横井弘が詩をつけた、いわゆるハメ込みの歌で
昭和40年3月に発売されました。
 哀愁が漂よう曲調なので”別れの歌”にと、女性の
話しかけ言葉で綴られたこの歌、ちょうどそのとき「下
町の太陽」のヒットのイメージが強すぎて、大人のム
ードに乗り切れなかった倍賞にはもってこいというこ
とで、披女に白羽の矢が立ったのです。
 ルンバ・ロック詞のメロディーで、150万突破とレコ
ード大賞作曲賞を得たこの歌をきっかけに、ポップス調
の歌が、ひとつの勢力を占めるようになってもいます。

さくら貝の歌

作詞:土屋花情 作曲:八洲秀章 編曲:小川寛興

 昭和24年7月にNHKのラジオ歌謡として、小川静
江の歌で流れ好評を博し、翌25年1月にコロムピアか
ら辻輝子の歌でレコードとなってヒットしました。
 作曲家八洲秀章が、胸を病んで世を去った恋人への
思いをこめて作った…といわれるこの歌、出来たのは
昭和15年の夏だったといいますから、戦争と敗戦後の
混乱とで、10年も世に出るきっかけを失っていたわけ
です。
 それだけに、このセンチメンタルな中に香気あふる
るメロディー。抒情的な美しい歌詞が、戦後の荒廃し
た大衆の心に沁み入って支持されたのでしょう。当時
のラジオ歌謡の中でもことに女性に多くのファンを掴
みました。
 昭和44年に倍賞千恵子がリバイバルしてまたまたヒ
ット。彼女もレパートリーのひとつに加え、大切にし
ているようです。

下町の太陽

作詞:横井弘 作曲:江口浩司 編曲:小川寛興

 SKDから松竹映画に籍を移し、映画俳優として”花
嫁シリーズ”で活躍中だった倍賞千恵子を、レコード
五社で激しい争奪をした結果、キングが獲得し、その
デビュー盤として制作されたものです。
 北区滝野川に育った倍賞のスターらしくない庶民性
を生かして「下町」を意識して制作されたものですが、
発売会議では否定的な意見が多く、そのタイトルさえ
「あまりにも場末の印象‥・」と、ケチをつけられたと
か。
 その結果、倍賞の主演映画「裸足の花嫁」の主題歌
「瀬戸の恋唄」と同時発売の、新人には異例のデビュ
ーとなったもの・‥、しかし文化放送の「全国歌謡ベス
トテン」で注目されて火がついてヒット、ついにはレ
コード大賞新人賞にも輝く成果を見たのです。

小指の思い出

作詞:有馬三恵子 作曲:鈴木淳 編曲:森岡賢一郎

 中尾ミエ、園まりとならんで渡辺プロダクションの
三人娘と呼ばれながら、二人に遅れをとっていた伊東
ゆかりが歌いヒット。二人に肩をならべるきっかけを
作った歌です。
 作曲の鈴木淳が、最初に歌手として考えていたのは
倍賞千恵子だったようですが、「倍賞にはもっと演歌っ
ぼいものを・‥」と断わられ、そのあげく渡辺音楽出版
社に話がつながったものです。そしてそこでも初めは
園まり用でした。しかし伊東ゆかりの担当プロデュー
サーが「伊東ゆかりで売れる‥・」と力説、彼女が歌う
ことに落着いたのです。
 デビューして9年、まわり道をしたように出世の遅
れた伊東ゆかりが、そんな経緯の曲で花開いたという
のも、何か因縁めいた話です。
 ともかく、さり気なく大人のムードを歌い上げた彼
女の歌唱が光りました。

恋のしずく

作詞:安井かずみ 作曲:平尾昌晃 編曲:森岡賢一郎

 「小指の想い出」で、レコード大賞歌唱賞までも得
るというヒットで、スターの座についた伊東ゆかりの
地位を、不動のものとした昭和43年のヒット曲です。
 布施明の「霧の摩周湖」で当て、作曲家としても脚
光を浴びはじめていた平尾昌晃が、同じ渡辺プロダク
ションの梓みちよの「渚のセニョリーナ」に次いで書
いたのが、この「恋のしずく」で、平尾もまた作曲者
の地位を確かなものにしています。
 「小指の‥・」と同じように、ビギン調の曲調で、や
はり大人のムードを盛り上げて成功し、和製ポップス
・ファンの層をぐんと広げる役割まで果した感じです。

愛のわかれ(NON PENSARE A ME)

訳詞:音羽たかし 作曲:Pros Scorilli 編曲:森岡賢一郎

1967年のサンレモ音楽祭の入賞曲です。伊東ゆかり
は9歳で歌手を志し、11歳のときに「タワイ河マーチ」
でレコード・デビューを果していますが、その前は父
親がベース・マンだったことから、父親について米軍
のキャンプをめぐっていた時代があったようです。
 それだけにポップス調のフィーリングは、キャンプ
で鍛えられたといえるようで、歌のスケールを大きく
感じさせるのも、そんなことからでしょう。
 歌のうまさ、歌を掴む才能にすぐれていて、どんな
歌でもこなすという評価を得ているのも、ウェスター
ンやポップス以外に、こうしたカンツォーネさえ、自
分のレパートリーに加えたからに他なりません。

可愛い花

訳詞:音羽たかし 作曲:S.Bechet 編曲:宮川泰

 東芝、ビクターと獲得合戦を演じ、キングが手にし
たザ・ピーナッツのデビュー曲です。
 一卵性双生児の彼女たちは、ピーナッツの名のとお
り小柄で可愛らしく、一つの質問に全く同時に返答を
するなどはもちろん、風邪をひくのも一緒、お腹をこ
わすのも一緒といったつながり、それだけに息もぴっ
たりのフィーリング、ハーモニーもいうことなしで、
一躍ファンをつかんで、この曲をヒットさせました。
 原曲はジャズのS・ベシエの1952午(昭和27年)の
作品で、妻に捧げた愛の歌だといいます。
 アレンジの宮川泰がつきっきりでピーナッツを指導
可愛い花を咲かせました。

収録されているのは1967年のステレオ録音です。
(追記:インファント)

ウナ・セラ・ディ東京

作詞:岩谷時子 作曲:宮川泰 編曲:東海林修*

 イタリア語で「東京の夜」という意味ですが、岩谷
時子・宮川泰コンビのれっきとした日本の作。昭和39
年にザ・ピーナッツの歌でヒット、一世を風びしまし
た。
「可愛い花」「情熱の花」など、外国曲のヒットを持
つザ・ピーナッツが、前年の「恋のバカンス」に続く
作品で、夏のバカンスに対し、秋のムードをねらった
もの。最初「東京たそがれ」のタイトルで、歌詞に「ト
ワイライト・イン・トーキョー」を英語で入っていま
したが、当時カンツォーネに人気が集っていたので、
イタリア語の方がアッピールすると変ったものです。
 ザ・ピーナッツの発音が「トーキオ」と外人風であ
ったことで、批判もうけましたが、それがまた人気で
マヒナスターズとの競作に水をあけたのです。

収録されているのは1967年のステレオ再録音です。
(追記:インファント)

この解説にはいくつか誤記がありますので、後述します。

情熱の花

訳詞:音羽たかし 作曲:G.Garfield 編曲:宮川泰

 「可愛い花」のデビュー・ヒットで、歌手として花
開いたザ・ピーナッツが、それに次いで放ったヒット。
これで彼女たちはスターの座をつかみ、第一線での活
躍を確かなものとしました。
 ベートーヴェンのピアノ曲として、多くの人に知ら
れる「エリーゼの為に」をアレンジし「パッション・
フラワー」というタイトルで、歌詞を付したもの。19
59年(昭和34年)にカテリーナ・ヴァレンテが歌いヒ
ットしていたものを移入し、ザ・ピーナッツのものと
なったのです。
 カテリーナ・バレンテは、歌のはしめの方を一人で
二重録音してハーモニーをつけましたが、そこはザ・
ピーナッツ、手間をかけずにきれいなハーモニーを聞
かせました。

収録されているのは1967年のステレオ再録音です。
(追記:インファント)

夜明けのうた

作詞:岩谷時子 作曲/編曲:いずみたく

 越路吹雪のマネージャーのかたわら、彼女のために
数々のシャンソンの訳詩をし、またオリジナルも書い
て、すぐれた才能を示している岩谷時子の詩に、その
岩谷とのコンビでしばしばヒットを出している“いず
みたく”が作曲したもので、昭和39年10月岸洋子が歌
ってヒットしました。ひと月遅れで東芝から坂本九も
出しました。
 女性の作品らしい言葉のやさしさ、ポピュラー調の
モダンで覚えやすいメロディー、岸洋子のすばらしい
フィーリングがぴったりとマッチし、ヒットに結びつ
いたもの。
 岸洋子はこの歌で第6回レコード大賞「歌唱賞」を
得ました。

希望

作詞:藤田敏雄 作曲:いずみたく 編曲:川口真

 健康を害してオペラ歌手を断念し、シャンソン歌手
になった岸洋子は、「夜明けの歌」「恋心」のヒットで
シャンソン界のヌーベル・バーグと騒がれたデビュー
時の期待に応えたわけですが、その歌唱力の高さを、
さらに認識させたのがこの歌です。
 岸洋子はこの「希望」が売れ行きを伸ばしている最
中の昭和45年10日、巡業先の郷里酒田市で膠原病のた
めに倒れ、1年半の入院年活を送った後退院して再び
活躍をはじめ、ファンの陶に”希望“の灯をともしま
したが、再び病に侵され、現在闘病中です。
 「希望という名の あなたのあの歌、そうよあなた
に また逢うために…」と彼女の歌にもあるように、
一日も早く元気な姿を見せて欲しいものです。

岸洋子さんは1992年に他界されました。
(追記:インファント)

サン・トワ・マミー

訳詞:岩谷時子 作曲:S.Adamo 編曲:若松正司

 日本にファンの多いシャンソン歌手、S・アデモが、
1962年(昭和37年)に作り、自分で歌ってヒットさせ
たもので、この歌で彼もまたスターの座につきました。
 日本では昭和39年に岩谷時子の詩で越路吹雪が歌い
ヒット。彼女の代表的ナンバーに加えられました。そ
してその後、岸洋子もレコーディングしてあとを追い、
これもまた大評判をとってヒットしたものです。
 失恋の苦しみを内容としながら、明るい曲調がこれ
を救って、多くの女性ファンの心を掴んだのでしょう。
シャンソニエなどでは今でも高い人気を保ち、スタン
ダードとしてよく歌われる歌のひとつです。

*注記1:ウナ・セラ・ディ東京の編曲者名が東海林修となっていますが、
     それは大ヒットとなった改名後のオリジナル・アレンジ版です。
     収録されたこの1967年版のアレンジは宮川泰です。
     なお、1968年にも再録音しており、これも宮川泰です。
     出来れば東海林修版で収録するか、どうしても宮川編曲となれば、
     1968年版の方が聴き応えがあったのに残念です。
*注記2:「東京たそがれ」のタイトルでもシングルをリリースしています。
     その際も「トワイライト・イン・トーキョー」とは歌っていず、
     早い機会に歌詞は「ウナ・セラ・ディ...」と変わっていました。

感想

一聴して、歪みの無い滑らかな音調で、イメージ的にアナログに期待する要素は
見事に実現している感じがする。しかし、実に大人しく静的な感覚を抱いた。

試みにこのレコードと同じソースで作られた通常盤のレコードと比べてみた。

ここで意外な現象に遭遇することになった。

こっちの盤の方が「音が活き活きしてる」のである。

そんなことがあるのだろうか?
一生懸命にライナーを転記したのに、あの能書きは何なのだろう!

これは自分の感覚がおかしいのかと疑心暗鬼になって贈ってくれたアンカーさんにも
メールでそう書いたところ、自分もそう感じる、とのご返事を頂いた。
さあ、こうなると謎を解明しなくてはならない。

(1)周波数帯域:このために使われたカッテイング・システムは10Hzから50kHzの
   非常に広い帯域をもっております。

→→→1967年当時から、ほぼ、同等の性能のマシンが使われていたのではないか。

(2)トランジェント特性:
(3)ダイナミック・レンジ:
(4)低歪率:
(5)情報密度:

→→→これらも上記同様に、カッティングに使われる機材は既に完成度は高かったと
   推定される。
(7)ハーフ・スピード・カッティング:
→→→これは諸刃の刃のような面があるかも知れない。昔から用いられた方法だが、
   低スピードでは回転ムラの懸念が生じやすく、それをサーボで制御するのは
   むしろ悪影響もあるので難しいところだが、音の繊細さは増すであろう。

(8)管球式アンプ:ハイ・パワーのカッティング・アンプ:
→→→当時は全て真空管式なのであって、先祖返りのようなもの。差は皆無。

(9)超多重量盤:約180grの重さをもっております。これは通常レコードと比べて
   さらに60%以上の重さとなります。

→→→上の1967年のピーナッツLPは、私の実測で、160グラムでした。
   ここで述べている通常レコードというのはザ・ピーナッツの現役時代の盤では
   なくて、もっとずっと後期の材料をケチった時代を指しているのでしょう。
   ピーナッツのLPは全部、通常盤でも重量盤だったのです。

(0)ダイレクト・コネクティング:再生用テープレコーダーのヘッド・アンプから、
   カッティング用のパワー・アンプまでをダイレクトに凍続し、その間のたとえ
   ばグラフィック・イクォライザー、フィルター、リミッターなどは一切介在さ
   せておりません(ブロック図参照)。その結果、マスター・テープの信号をフ
   ラットにカッター・ヘッドヘ伝送することができ、音質劣化やトランジェント
   特性は著しく改善され、ナチュラルで鮮度の高い音が得られております。

→→→ここに謎解きの大きなヒントがあると思われます。
   「何も足さない、何も引かない、何も変えない」という純粋さを謳っています。
   しかし、言い直すと「耳の職人の技」を排除したということです。
   「生のままでお召し上がり下さい」というのと「一流の板前が調理した味を」
   ご堪能して下さい、の違いがあるのではないだろうか?


結論

せっかく素敵なアルバムを発掘して贈ってくれたのに(しかも盤質も最高だし)、
普通のLPで十分だなどとは思っても書くべきではないのではないのか?
あなたはそれでは人でなしと言われますよ。と叱られそう。

いいえ、そうではないのです。
このレコードはやはり大変に貴重で、かけがえのない素晴らしいプレゼントです。
なぜならば、「マスター・テープ」の音とはどういうものかをある程度ですが、
知ることが出来たのです。これは大変に幸運な遭遇だったと感激しています。

マスターの音と比べたら、相当に劣化したものを聴いているのだろうな〜という
馬鹿げた劣等感にさいなまれなくてもいいのです。これからはね!

「マスター・テープ」は強調感がなく、自然で素直で大人しいが物足りない。
それに比べ、市販の通常のレコードは躍動的で活き活きしていて実に楽しい。
わくわくするような弾んだ音楽が聴けるのです。

カッティング・マスターを作る際の技術者は聴かせる為の音作りのノウハウを持ち、
昔は、その耳で味付けをしていたのでしょう。
デフォルメと書くとオーバーですが、回路部品の選定などの要素もあるかも知れず、
そこには「耳の職人」としての細かな技があったのでしょう。
材料だって門外不出の調合があったらしいし、今回のようにビクターで音盤を作る
ような時代ではなく、キング・レコードがレコード全盛時代に自社で作った作品は
きっとノウハウの宝庫のようなものだったかも知れませんね。

このレコードを聴いてから、手持ちのレコード達がむしろ素晴らしい宝物に感じて
暫く呆然と聴き直してしまいました。
それもこれも、このレコードとの遭遇があったからこそです。
アンカーさん、本当に、ありがとうございました。

蛇足

さて、このスーパー・アナログ・ディスクは意外なことに、CDの音調と似てます。
一般的に我が家のCDプレイヤーではCDはアナログ・ディスクより素直に聴こえ
る傾向があります。だからアナログに特に暖かみがあるとかは感じません。
でも、アナログ・ディスクには何かの技があるといつも感じています。
つまり、アナログとデジタルの違いではなくて、良い音の職人が今でも居るのかが
課題ではなかろうかという思いがします。

所詮、聴くのは人間の耳であって測定器ではないのです。
数値上はどうあれ、あのザ・ピーナッツ・デラックスLPを作ったエンジニアに
大きな拍手を贈りたいと思いました。

-----おわり-----

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