私がこの世で一番大好きな曲はチャイコフスキー作曲のバレエ音楽である
「くるみ割り人形/作品71」の第二幕「花のワルツ」です。
誰でも知っている有名な曲ですが、何度聴いてもやっぱり最高です。

音楽そのものにも詳しくありませんが、クラシックはなお一層ど素人です。
ですが、チャイコフスキーの三大バレエ作品自体が生前は全然評価されず、
殆どバレエ公演も演奏もされなかったというのですからクラシック音楽に
疎いということは少しも恥ずかしいことじゃないと思っています。

クラシックの曲って、ある日突然、あ、これいい! と感じるものなので、
つまんねえのやってるなと思っても、テレビのクラシック番組をぼーっと
眺めてるのが案外、ご縁が出来るみたいです。
ロブロフォンマタチッチという指揮者が映っているテレビを偶然見ていて、
なんだろうなこの風采の上がらないヨボヨボで口許に締まりがないデブの
どこが良くて指揮させてるんだと興味が湧いて聴いていたら、あれれれ、
凄い音楽じゃないのこれって、交響曲の良さがあっという間に分った。
クラシック聴こうかなと思った瞬間でした。ご縁です、ご縁。

チャイコフスキーのバレエ音楽はいいけど、全曲盤を聴くのはマニアでも
2時間半は苦行だろ、というお話がありますが、私は全曲盤大好き人間です。
お腹いっぱいにはなりません。さわりだけ聴くのは勿体ないです。
でも、この一曲だけに限定しろといわれれば「花のワルツ」でしょうねえ。
白鳥の湖の例の情景も素晴らしいけど、あれは終った感じしないんだよね。
完結したなと感じるのは「白鳥の恋/ザ・ピーナッツ」だなあ(笑)。
http://peanutsfan.net/291.html

ちょっと昔は、アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団というのが定番で
極め付けなんて言われてましたが、白鳥の湖ハイライトLP買ったんだけど
私の耳にはあまり上手くないんじゃないの? と感じてCD買ってません。
また、横浜のダイヤモンド地下街にあったクラシック充実のレコード店で
壁面に陳列してた「眠れる森の美女全曲」の英デッカオリジナル直輸入盤が
売れ残ってて破格の値段で売ってくれたんだけど、音質は最高級だったけど
有名なワルツのとこだけしか聴かないで死蔵してます。
今じゃアンセルメ盤はネットでもお薦めする人はあまり見ないね。
なんだったんだろ、あのブームは? 英デッカの録音の魅力だったのかな?

アナログレコードの時は高価でしたが、デジタル時代になって随分と安価に買える
ようになった「花のワルツ」のCDを聴き比べてみました。ステレオ録音限定です。
価格表記は私が買った時点のもので、現在はもっとお安く入手出来ると思います。

愛好指数★★★★★100

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1960.2.15-17録音<7:09>
盤タイトル/軍隊行進曲ークナッパーツブッシュ/ポピュラー・コンサート
英DECCA(ロンドン・レコード)
1990年発売(キングレコード)
¥ 2,300(¥1,080 AMAZON中古扱い)

クナッパーツブッシュという指揮者はあまりお馴染みではないけれど
色々な伝説も残っている大変な巨匠らしいのです。
そもそもマエストロという人種は奇人変人が多く普通の人と違うので
この方も気難しくて録音の為の演奏など大嫌いだったようです。
この曲のような素人向け音楽を何故録音してくれたのか謎なのですが
どういうわけか、例外的にくるみ割り人形が大好きだったらしいです。
見てくれはゴジラみたいなゴツい顔のオッサンだけど音楽は優しい。

この録音に際しての練習はしなかったらしくぶっつけ本番なのですが、
この方はリハーサル嫌いで、私はこの曲は良く知っているし、皆さんも
知っているでしょう。どこかおさらいしたい箇所がありますかと尋ね、
じゃあ今夜、本番でまた会いましょう、と言って練習を止めちゃう。
これが大作の演奏会でもこうなので、まあ呆れた指揮者ですねえ。

練習嫌いの指揮者は老舗オケであるウィーンフィルにとっては人気者。
ウィーンフィルも練習が大嫌いだからです。
ぶっつけ本番で演奏する方がお互いに楽しかったのでしょうね。
だから育成・指導が得意じゃなく超一流同士の阿吽の呼吸での演奏が
持ち味。指揮者、楽団、歌手、聴衆がみんなお仲間。
ウィーンフィルというのはウィーン国立歌劇場管弦楽団の団員なので
年中オペラなんかやってて常連のお客様も含めた仲良し共同体。
それじゃ将来、問題なのでは? という懸念はずっとありますが……

この曲のようなクラシック音楽入門的な演奏を得意とする指揮者もおり、
ヨーロッパの超名門オーケストラと巨匠には似合わないのでありますが、
なんだかしらないけど、ただボーっと演奏してるようなこの感じが良い。
何故かしら幸せな気分になる。なんでこんなに楽しくなるんだろう。
よーし、上手い演奏を聴くぞ!なんて感じじゃないし、少しも凄くない。
素晴らしい演奏だったとは感じないのに素敵な後味が残る。不思議だ。

オーケストラの音色も最高だ。美しい響きだ。こういうのがいいんだ。
高音が伸びてるわけじゃないし、重低音が迫ることもない。ふつうだ。
目が醒めるような音じゃなく、うっとり眠くなるような穏やかさだ。
こりゃあ本当に音楽の楽しみ方が分かっている録音技師なんだろうな。
とても古いCDだけど、中古のおかげで1080円は良い買い物だった。
最新リマスター盤とか、ハイレゾ化とか要らないよ。このままで最高だ。

愛好指数★★★★★100

ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
1963.10.16録音<6:56>
盤タイトル/三大バレエハイライト
米CBS
1996年発売(ソニー・ミュージックレコーズ)
¥ 1,800

愛好指数★★★50

ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
1972.9.25-26録音<7:09>
盤タイトル/Eugene Ormandy Conducts Tchaikovsky
RCA
2013年発売RCA
¥ 2,347(輸入BOX12CD入り超廉価)

オーマンディという指揮者はアメリカを代表するような極上オーケストラの
フィラデルフィア管弦楽団の常任指揮者を40年以上勤めた大変な実力者。
オーケストラは華麗で美麗な響きで世界屈指の腕達者ばかり揃えて豪奢。
なんだけど日本での人気は今一つ。オーマンディさんのビジュアルも一因。
冴えないオッサンみたいで、演奏も特に何かしているようには聴こえない。
ようするにオーケストラの美音以外に何も取り柄がないようなのですよ。

ところが私が初めて買ったくるみ割り人形のレコードがこれだったのです。
LP一枚に全曲は入らないので、ハイライト版。組曲より曲数は多いのです。
聴き慣れたせいか、私にとって標準的な演奏。これがスタンダードです。
なぜかこのレコードの演奏には他のどれからも感じられない哀切感がある。
初めてのレコードなのできっと刷り込み感があるせいだと思っていました。
ところがある日、あっと気付いたのです。
お馴染みの繰り返し箇所の二回目は第一ヴァイオリンがオクターブ上を
弾いているんです。チャイコフスキーの楽譜を改竄しちゃってるんです。
あっと驚くタメゴロー。これ、オーマンディさんの反則技でしょう。
だけど、私は許す。いいでしょう。そういう演奏が一つくらいあっても。

9年後のRCA移籍後の録音でも同じことやってるのでオーマンディさんの
個人技と言えます。しかしCBS盤の方がずっと良いのです。
CBS盤もRCA盤も良く似た演奏なのですが、音質が全然違うのです。
あくまで個人的な評価ですが、うんと古いCBS録音が圧倒的に素晴らしい。
RCA盤はヴァイオリン群がギラギラしちゃってシルキートーンじゃない。
私の鑑賞機材との相性かもしれないので絶対的評価ではありませんが、
好き嫌いで書いているので、これは嫌い。
録音自体はより明晰で解像度は上だとは思うもののこの弦楽器の響きでは
聴くのを止めたくなる。リマスターとかした他のCDでは違うのかも?

愛好指数★★★50

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1966.10-12録音<7:02>
盤タイトル/チャイコフスキー: 3大バレエ組曲 Limited Edition
グラモフォン
2006.11.8発売
ユニバーサル ミュージック クラシック
¥ 1,000

愛好指数0最低だ

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
1961年録音<5:56>
盤タイトル/チャイコフスキー:3大バレエ
英DECCA(ロンドン・レコード)
2009.10.21発売
ユニバーサル ミュージック クラシック
¥1,467

カラヤンさんは誰でも知っている超有名指揮者であり、凄まじい数の
レコード・CD・ビデオを残しています。こういう通俗名曲演奏でも
素晴らしいという定評があります。もう説明不要だろうと思います。
オーケストラも間違いなく世界最高レベルのベルリン・フィルです。
確かに演奏は上手いです。上手すぎるくらい達者。極上の演奏です。
だけど、どういうわけかヴァイオリン群がキンキン煌びやか過ぎる。
同じ録音で、ハイファイ・カラヤンというお買得LPを以前買いました。
その音質も良く似ていますが、当時はLP最内周に収録されていたので
再生条件が厳しかったのだと思ってましたが、CDでも同じ感じです。
どうやら、このベルリン・フィルのグラモフォン録音は私の耳と相性が
良くないとしか思えません。録音自体が悪いとは思えないのですがねえ。

音質という面ではウィーン・フィルとの録音は素敵ですし、演奏も
ベルリン・フィル盤と甲乙つけがたいほどの名演です。
しかし、花のワルツに限定するとこの世で最悪のキテレツ演奏です。
繰り返し箇所を省略するという絶対に許すことの出来ない犯罪的演奏。
演奏時間5分56秒という超短縮版。これはないんじゃないかな〜。
テレビ番組収録などではこういうのもあるだろうけど、レコード盤は
お金出して買って頂くものだよ。省略なんて言語道断。意味不明。
カラヤンは大馬鹿者だったと、このCD買って初めて知った。
交響曲内でのソナタ形式提示部繰り返しの省略をする指揮者は多く、
録音で繰り返し聴くことの出来ない時代だったからの作曲家意図で
今の時代は要らないという解釈でそうする意向もわからなくないが、
円舞曲でメロディー繰り返しをカットしちゃったら美しく青きドナウ
なんかボロクソの曲になっちゃう。花のワルツもワルツなんだって。
この盤を最高だと薦める記事もネットで見かけるけど、そうかなあ。

愛好指数★★★★★100

サイモン・ラトル指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2009.12.29-31デジタル録音<6:55>
盤タイトル/バレエ音楽「くるみ割り人形」(全曲)デラックス版(DVD付)
EMI
2010.8.4発売
EMIミュージック・ジャパン
¥ 3,200

ラトルさんの花のワルツはジルヴェスター・コンサートのライブ録音。
ライブとかスタジオセッションとか全く意識させない見事な演奏です。
ハイレゾではない通常CDですが奥行き豊かで解像度抜群の響きです。
同じ旋律の繰り返しでも強弱ニュアンスをつけたり表情があります。
付属のDVDでライブ映像が見れますが、繰り返しの際に指揮棒を左手に
移して右手の掌で滑らかに撫でるようにしたり、ああやってるんだな〜
成る程な〜と思う場面が多々あって興味深い。

ラトルさんのくるみ割り人形へのアプローチ・トークもDVDに入っていて、
全曲を収録するのはベルリン・フィルは初めてなのだとか、このオケでの
演奏は難しいとか、えーそういうものなのかと驚いた。
こういう有名曲は、お茶の子さいさいなのだとばかり思っていた。
色々な音符に意味があって、まるでシンフォニーでバレエ伴奏じゃない。
ちょっとクソ真面目に真剣にやり過ぎる感じもあるが聴き応え十分。
DVDにはコンサートマスターの樫本大進さんの演奏姿もあるが楽しんで
いる様子は皆無で真摯で、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートの
ような寛いだ雰囲気じゃない。真剣勝負してる風情だ。
こういう演奏も良いな〜。色々あってそれぞれ良い。これも好きだ。

愛好指数★★★★80

ジェイムズ・レヴァイン指揮
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
1992年11月デジタル録音<6:27>
盤タイトル/チャイコフスキー:3大バレエ組曲
グラモフォン
1997.9.5発売
ポリグラム株式会社
¥ 1,800

このCDは、花のワルツが聴きたくて買ったわけではなく、最新の
デジタル録音でチャイコフスキーの三大バレエ曲を聴いてみようと
思い付いて購ったのです。(現時点では最新じゃないけど/笑)
デジタル録音だからかなと感じたのはくるみ割り人形の曲ではなく
白鳥の湖組曲最終曲の情景。

あの物凄い大音響の大詰めで大太鼓がズドンと鳴った時、家内が
キッチンからすっ飛んで来て「今の何!」と驚いてた。
当時の装置は300Wのアンプで38センチウーファーを鳴らして
いたので、それはもう強烈な重低音が鳴り響いたんです。
そんなに大きな音で聴いてたわけじゃないのに出る時は出るんです。
この大きなタンスみたなのは何?と団地の子供繋がりで遊びに来た
お母さんが、巨大なスピーカーに驚いてた時期でした。

デジタル録音とかCDとか実際恐ろしい音が出るんで気を付けようと
それから思い直しました。レコードではそんな振幅はカッテイング
されていませんからね。

ところでこのレヴァインさんという指揮者、よく知りません。
ウィーン・フィルを振れるのですから下手くそじゃないでしょうが。
この花のワルツは私の好みと違い、テンポ速過ぎ。
花の妖精が飛び跳ねるようにクルックル回ってる感じです。
ターラ、ターラ、ターラ、タララッタ、と切り刻む感じに違和感。
そもそもそういう風な楽譜らしいのだけど大多数の指揮者は滑らかに
裾を引きずるような感じで演奏しますよね。そういう普通が好きだな。

愛好指数★★★☆75

ハインツ・レーグナー指揮
ベルリン放送交響楽団
1982.8.24-26,9.14,11.26-27録音<7:05>
盤タイトル/バレエ音楽「くるみ割り人形」ハイライツ
東ドイツレーベル??
2015.10.08発売
キングレコード
¥ 1,000

元来クラシックは素人で知らないことだらけなんですが、レーグナーという
指揮者のことも全然無知です。ネットで拾って書いてもつまんないので、
予備知識皆無で聴いています。
このくるみ割り人形の音楽にとても真剣に取組み、凄い曲を演奏する気構え
のようなものが伝わってきますが、ベートーベンとかブラームスの交響曲の
演奏みたいで重々しく、ファンタジーのような愉しみが無いようです。

オーケストラが下手とは思えないのですが、ドスの効いたサウンドで明るさが
なくて沈み込むように重心が低く、壮大な雰囲気がありますが、やかましいと
いう感じもあり、心地よい音楽にはなっていません。
どこか私の求めている音楽とは違うようです。他に相応しい曲がありそうです。
花のワルツはとてもゆっくりで、それは悪くはないのですが、ゆったりしてる
というのではなく、重厚過ぎるんです。面白味に欠けるとでもいうのかしら。

大袈裟な感じなので、交響組曲くるみ割り人形のタイトルの方が似合いそう。
音色的に滑らかにリマスタリングし直したら、結構良いかも知れない。
好き嫌いを超えて、こういう演奏があっても良いとは思います。
まあ、でも、こういうのはバレエ音楽じゃないような気もしますが。

愛好指数★★★★★100

小林研一郎指揮
アーネム・フィルハーモニー管弦楽団
2005.4.6-8デジタル録音<7:00>
盤タイトル/チャイコフスキー交響曲5盤:くるみ割り人形組曲
エクストン
2005.9.22発売
オクタヴィア・レコード
¥ 3,000 SACD

とにかく一聴して分かる音質の素晴らしさ。この世のものじゃないみたい。
SACDの威力は絶大で、きめ細かくて、壮大という不思議さ。
演奏会場でもこんな見事な音響を味わうことは出来ないのではなかろうか。
眼前で演奏しているようでもあり、広大なホール残響が同時に聴けるのだ。
もうこれは音響芸術の世界である。我が家でこんな感覚が味わえるなんて
長生きして良かったとしか思えない。
バストロンボーンが強奏しているバックに幽かなトライアングルが聴ける。
この年齢になってもこんなに色々な楽器が重なってるのが分かるなんて。

小林研一郎(通称コバケン)さんの指揮は私だったらこういう風にしたいと
思うような感じで音楽を構築しているように聴こえる。錯覚だろうけど。
やはり同じ日本人だからなのだろうか? そこはなんともわからない。
痒い所に手が届いている、そういう感覚で、快感につぐ快感。
これはもうクラシックを聴いている気分ではなく、歌謡曲のような馴染みが
生まれる演奏だ。同じ楽譜なのに魔法だね、これは。

くるみ割り人形が聴きたくて買ったのではなく、チャイコフスキーの交響曲
5番は、とにかく小林研一郎さんの十八番。大得意な曲だという評判なので
本当かしらと買ってみたのです。コバケンさんの生演奏かっこいいから。
演奏しているアーネム・フィル・ハーモニー管弦楽団はオランダのオケで、
オランダといえばアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団が有名ですが、
(追記:現在はアムステルダムじゃなくロイヤル・コンセルトヘボウ)
楽団の歴史的にはほぼ同じ時期に発足していて老舗らしいのです。
ただしあまり一流ではないみたい。(日本人を常任にするくらいですから)
しかしそれだけに練習十分で指揮にぴったりついていく感じがあります。
実際、聴いていて下手だなんて私のような素人には微塵も感じさせません。

愛好指数★★★★☆95

アンドレ・プレヴィン指揮
ロンドン交響楽団
1972.5.1-4録音<6:52>
盤タイトル/チャイコフスキーバレエ音楽:くるみ割り人形全曲
EMI
2007.11.21発売
EMIミュージック・ジャパン
¥ 2,000

この演奏は素晴らしいもので私のような者がケチをつけられる筋合いがない程です。
しかしながら個人的嗜好として、もう少しゆったりと演って欲しかったと思う。
微妙ながら軽快にというイメージを感じるのです。それはそれで正解なのですがね。

指揮のアンドレ・プレヴィンという方はジャズ・ピアニストでもあり映画音楽でも
4度のグラミー賞を受賞したりと驚異のマルチな才能がある音楽界の巨匠です。
チャイコフスキーの三大バレエ音楽もギネス級であろうと思われる複数の全曲盤を
録音し、このロンドン交響楽団とのコンビだけでなくロイヤル・フィルとも全曲盤
を出しており、現在でもそのいずれもが優秀盤の折紙付きで販売されています。
こんなにチャイコフスキーの三大バレエ音楽を扱った指揮者はこの人だけです。
89歳でまだご存命だと知って驚きました。

改めて指揮者がジャズ・ピアニストだということが浮き彫りになる部分があるのが
イントロ部分のハープ演奏。他の演奏では恐らくチャイコフスキーの楽譜どおりに
弾いているようですが、ここをアドリブ的な面白いオリジナル旋律で弾いている。
しかし多分これもチャイコフスキーの指定の注文どおりにやっているのでしょう。
楽譜を見てはいないけど、ここにカデンツアが指定されてるんでしょう。
即興で自由にやってもいいよ、と作曲者が指定している筈です。ここはジャズです。
あれっ、こんなのありぃ、そうなんです。これやっても良いのです。センスの問題。

1972年の古い録音ですが音色も素敵で心地よく演奏技術も申し分ないと思われます。
ポピュラー音楽に慣れた耳にも何ら違和感がない。お洒落な演奏だと思います。
繰り返しますが、もう少し緩やかに演奏して下されば私の好みに合致するのですが。

愛好指数★★★★★98

ワレリー・ゲルギエフ指揮
キーロフ歌劇場管弦楽団/マリインスキー劇場合唱団
1998.8デジタル録音<6:24>
盤タイトル/チャイコフスキーバレエ:くるみ割り人形全曲
フリップス
1998.12.2発売
ポリグラム株式会社
¥ 3,059

これは誰が何と言おうと正真正銘の本場物の演奏です。善し悪し抜きで。
チャイコフスキーの音楽はグローバル化している現代で本場もクソも無い。
それもそうですが、チャイコフスキーさんはキーロフ劇場監督からバレエ音楽の
注文を受けて、くるみ割り人形を作曲しているのです。そう、ここの劇場です。
(ややこしいのですが、キーロフ劇場は歌劇とバレエの公演専門の劇場であって
 1992年にマリインスキー劇場と改名されていますが、今でも混用されています)

指揮のワレリー・ゲルギエフさんはマリインスキー歌劇場管弦楽団の常任指揮者。
劇場の芸術監督であり、総裁も就任、劇場の総責任者の重責を担っている。
管弦楽団の常任指揮者であっても従来はバレエの演奏は他所から呼んだ指揮者に
依頼することが習慣だったらしいのをゲルギエフさんは自分がやると決めた。
白鳥の湖、眠れる森の美女も全曲盤を同オーケストラで録音している。
白鳥の湖、眠れる森の美女はいずれも長大だが、くるみ割り人形は全曲でも短く、
81分間なので一枚のCDに収録出来ている。更に安価になってるのでお薦めかな?

アマゾンのレビューで読込みエラーになるというのがあったが、古い規格では
たしか74分間が最長だったかも知れないので注意が必要か? よくわからん。
我が家ではどんな装置でもちゃんと聴けます。

とにかく、チャイコフスキーはロシアの誇りだとばかり気合いは十分のようだ。
この布陣で世界一の演奏が出来なければロシアの恥だという感じでしょうか?
そこここに粘っこいほどの細部の執着があり、文句つけたらバチが当りそう。
ううん、いいんだけど、ちょっとうっとおしい感もある、気のせいだろうけど。
まあ、一度は聴いた方が良いでしょうね。他のが好きであっても。
同じコンビでの「白鳥の湖」も買いました。同劇場バレエのDVDも買いました。
凄いゴージャスです。バレエの伴奏も大変上手です。当たり前か。

特筆すべきはこのCDの音質。凄いんだ。CDでここまで表現出来るのか!!
黙って聴けば、SACDなどハイレゾ再生を聴いていると思ってしまいそう。
ハイレゾ要らないじゃないか。いや、少し空気感が違う? 気のせいだな?
ブックレットを見るとビットストリーム・レコーディングと書いてある。
PCM録音じゃなくDSDなのだろうか? でも商品はPCMのCDだよなあ。
とにかく最終製品のCDの音質特徴を意識して相応しい録音やマスタリングを
やってるんだろう。素晴らしい技量だ。何が違うのかわからないけど。
これは「白鳥の湖」でも同じだった。デジタル録音の方が滑らかになるのか?
技術は進んでいるのかな。ハイレゾはむしろ古いアナログ録音を生きかえらす
手段として生き残るのかも知れないなあ。

おおそうだ。肝心の花のワルツなんだけど、テンポをもう少し緩くしてくれれば
私好みになるのに惜しい。音色や雰囲気は申し分ないです。
でもバレエ実演の映像を見ると、私の好きなテンポは踊りには適切じゃないのか。
好き嫌いは個人の自由なので正しくなくてもそれでいいのだ。買うのは私だから。

(おしまい)2018.12.31記