15シリーズの回路の性能を突き詰めた

……今回は、マランツのスーパーオーディオCDプレーヤーとプリ・メインアンプの
PM−13S1を取り上げました。
 マランツには11シリーズと15シリーズもあり、まず11シリーズを登場させ、
次に15シリーズを発売。今回の13シリーズが最後になりました。まず、この経緯
について教えて下さい。

尾形 意図的に13シリーズを最後に出したわけではありません。前世代のラインナ
   ップであった14シリーズの後継機が11シリーズ、17シリーズの後継機と
   して15シリーズの企画がスタートしたのですが、その11シリーズ、15シ
   リーズは、デザインを全くのブランニューにしたいという背景がありまして、
   また内部のレイアウトから回路にいたるまですべてを一新させました。
   そのため、11シリーズは30万円台中ごろと、前世代の14シリーズの20
   万円台の価格からワンランク上がってしまいました。
   15シリーズと11シリーズの間は定価で20万円の価格差があります。
   しばらくそのまま推移していたんですけども、お客様のニーズからしても30
   万円を超えるとギャップが感じられたのだと思います。
   営業サイドからも20万円台で買えるものをという声がありましたので、ライ
   ンアップを見直して生まれたのがSA−13S1とPM−13S1です。
   当初から11、13、15というラインアップを構築しようという計画ではな
   かったのです。

……15シリーズが誕生してから新たに実現可能になった技術、使えるようになった
デバイスやパーツとかも多いのでしょうしね。

尾形 そうですね。それには昨年発売したマランツのフラグシップとなるスーパー
   オーディオCDプレーヤーのSA−7S1と、セパレートアンプのSC−7
   S2,MA−9S2の開発が大きく影響しています。
   マランツの今後の音の方向性を模索し、その結論として昨年発売したわけで、
   その時に得られたノウハウや新しい部品とかを13シリーズに盛り込むことが
   出来ました。
   ノウハウの蓄積は一朝一夕にはできませんので、もし、11、13、15とい
   うラインアップを当初から企画して順に発売したとしたら、今回発売した13
   シリーズとは違ったものになったと考えられますね。

上級機SA−11S1を上回るメカと電源を採用する

……では、いま、お話にあった部分を中心に伺っていきたいと思います。まず、
スーパーオーディオCDプレーヤーのSA−13S1からお願いします。

中山 SA−13S1は、回路図上はSA−15S1と同じですが、音のつくり
   込みに関してはSA−7S1の流れを汲んでいますので、音質的にはSA
   −15S1とは別のものができたと思っています。

尾形 SA−7S1の流れからの強化ポイントには、まずメカがあります。
   SA−7S1ではメカを新規設計して音質的な効果がかなり大きかっ
   たからです。次に電源まわりの強化があります。
   これがSA−13S1の開発コンセプトになっています。

中山 SA−13S1のメカはスタビライザーが装着されているSA−11S1の
   メカをベースにし、そのメカの剛性をさらに上げました。
   メカが載っているブラケットの厚みを2倍にして、ディスクの回転に対する
   揺れの抑制をさせています。

……このブラケットの素材には何を使っているんですか?

中山 銅メッキの鋼板です。曲げも入れているので、平板よりもさらに剛性が
   上がっています。

……このブラケットとシャーシの固定はリジッドですか?

中山 そうです。メカとはネジで片側5ケ所を留めています。シャーシとは別の
   ネジで共締めもしています。

……ブラケットのところで銅メッキのお話が出ましたけれども、SA−13S1は
シャーシにも使ってますね。

中山 そうです。リアパネルも含めて鋼板は銅メッキで統一しました。

……SA−15S1でやりたっかたけどできなかったことの一つですか?

中山 はい。その一つです。

……それでは、2つめのポイント。電源部について教えて下さい。

中山 15S1の電源トランスはEIコアのトランスでしたが、13S1では
   トロイダルコアのトランスを銅メッキのケースに入れて充填剤で固めた
   ものを採用しました。
   実はこのトランスはSA−11S1のトランスよりも一回り大きいです。
   容量はSA−15S1の2倍の80VAあります。

……上位機のSA−11S1のトランスよりもさらに大きいトランスの採用には、
どのような背景があるのですか?

中山 SA−7S1の時にトランスの検討をしたのですが、トランスの容量による
   音質傾向の変化が身に染みてわかったからです。
   このトランスの中には珪素鋼板とかも入っていますが、いろいろと試作をして、
   このセットに合うトランスを探しました。
   その辺の音質のつくり込みは時間的な余裕があったので、かなり細かいところ
   まで行っています。
   そしてこのトランスはシャーシとの間に10ミリのアルミベースを敷いて固定
   しています。シャーシから浮かせることによって漏洩磁束と磁性体からの影響
   を最小限にとどめることができるからです。

……D/Aコンバーターには何を使っているのですか?

中山 シーラス・ロジックのCS4397です。これはSA−14から使っている
   マランツでは定番のDACです。
   シーラス・ロジックの特徴である、おおらかさというか、そういう音を基準
   につくり込みをしました。

……同じD/Aコンバーターを使い続ける理由は、やはり音ですか?

中山 そうですね。シーラス・ロジックのCS4397というDACは信頼性も
   高いですし、マランツの音に合うものの一つと思っています。

澤田 CS4397というDACデバイスは、マランツがフィリップスの子会社で
   あった時に、シーラス・ロジックがフィリップスと共同で開発を進めたDA
   Cで、我々も音質評価に加わったりして、生い立ちから関係の深いデバイス
   なんです。
   シーラスにはCS4398という上位バージョンがあり、スペックはこちら
   の方が良いのですが、パッケージは4397の方が大きく、オーディオは不
   思議なもので、パッケージの大きなものはそれなりの音の魅力がありまして、
   いわゆるアナログチックな表現は4397の方が勝っていると感じています。

フラッグシップで新採用のパーツを搭載

……使用されているパーツについて教えていただけますか?

中山 電源部分から言いますと、整流に使っているショットキー・ダイオードを音
   のバランスを考えてアナログとメカの電源のみ変更しました。

……変更した部品の音の特徴は、どんな感じですか?

中山 パワー感というか、切れというか、それらが増したような感じです。
   それからミュートのリレーも変更しています。驚いたのですが、音の出ない
   時に動作するリレーなのに、替えてみると音が変りました。
   それから、アナログ回路の位相補償のコンデンサーに昨年のセパレートアン
   プで初めて採用した「スターキャップ」を使っています。

……ブルーの外装が特徴的なフィルムコンデンサーですね。

中山 はい。これはセパレートアンプの開発があったので13S1に採用できたも
   のの1つですね。DAC用電源のブロックコンデンサーにはSA−7S1で
   開発したものを使っています。

……まったく同じですか?

ヘッドフォン端子の音質にもこだわる

中山 はい。そして部品ではないのですが、ヘッドフォン回路の音質をチューニング
   し直しました。
   SA−15S1のヘッドフォン回路の音質は、お客様から好評を頂いておりま
   したので、それ以上のものをつくろうと思いました。
   回路は同じですが、コンデンサー等に高音質パーツを投入し、音を聴きながら
   ワイヤーの振り分けなども行いました。

……振り分けですか?

中山 ヘッドフォンのアナログ回路と電源関係、あとミュート信号が、ワイヤーで
   ヘッドフォンのアンプ基盤に行っているんですが、これをより分けたのです。
   しかもフェライトコアに別々に巻いています。これで音が驚くほど変わり、
   よりクリアな音になりました。

澤田 まあそれもありますが、ヘッドフォン端子の音質を上げる確実な方法は、当り
   前のことですが、まず本体の音質を良くすることです。

……では、澤田さん。その本体の音ですが、開発過程でSA−15S1からどのよう
  に変わったとお感じになりましたか?

澤田 シャーシやメカのブラケットをしっかりさせるとピラミッド型の安定したバラ
   ンスの音になります。
   そして、シャーシに銅メッキをかければ聴感上のノイズフロアは下がりますの
   で、情報量は増えるのにむしろ落ち着いた感じの音になります。
   それからトランスの容量が上がりますと押しの強いはっきりした音になります。
   大きなところではこのような性格がありますが、その後で細かく音に関わって
   くるパートがありますので、そういったもので全体の調整をしています。
   ただ、どれが絶対的にいいというわけではなくて、試聴しながら選択します。
   例えば青いフィルムコンデンサーの採用数はコストの関係だけではなくて、全
   部に使うと音が青くなり過ぎますので、効果的に全体のバランスがとれるとこ
   ろを採った結果です。

中山 使えるところ全部に試してみたんですよ。

11、15に無いアルミ製トップカバー

澤田 そして、音質的にはもう1つ非常に大きなファクターがありまして……。

……トップカバーですか?

澤田 はい。11S1と15S1は鋼板だったものをアルミ製に変えました。

……15S1と外観上の大きな違いになっていますね。

尾形 そうですね。逆に言うと前から見た15S1との違いはトップカバーのみなん
   です。後ろから見ると、13S1は銅メッキの鋼板になっているのでわかりや
   すいんですけど。

澤田 実は11S1と15S1の音質検討でもアルミ・トップカバーを試していたの
   です。鋼板とはノイズの伝わり方が変わるので、非磁性体であるアルミに優位
   性があることはわかっていたんです。
   最終的には13S1では5ミリ厚となったことで強度も上がってトップカバー
   のマイナス要因が少なくなり、音質的には大きなファクターになっていると思
   います。

……そうでしょうね。デザイン的にも最前部がスラントした仕上げで、高級感にもつ
ながっていますね。

澤田 実は、マランツの歴史の中で13番をつけたオーディオモデルというのはない
   んですよ。その理由は想像出来ると思います。キリスト教圏で13番というの
   は……。

……その数字を嫌いますからね。

澤田 日本専用モデルゆえの番号です。

……この13シリーズは日本専用モデルだったんですね。

澤田 もちろん海外にも提案したのですけれども種々の事情がありましてヨーロッパ
   では15と11の2ラインで継続していくということになりました。

山之内正の使用レポート
新しいノウハウをふんだんに盛り込んだ成果がうかがわれ
好感を持った。

 SA−13S1とPM−13S1はマランツのオーディオコンポーネントの中核を
なす重要な製品とみなすことができる。
 外観上は一部の外装以外に姉妹機種と大きな違いはないが、開発時期が新しいので、
中身には新しいノウハウがふんだんに盛り込まれているのはいうまでもない。しかも
両機種の開発過程でセパレートアンプやフラッグシップ・スーパーオーディオCDプ
レーヤーが登場しているので、上位機種と共通する技術やパーツも採用されている。
 外観の違いは少ないと書いたが、実際に姉妹機と見比べてみると厚みのあるトップ
パネルがもたらす印象の違いは大きい。グレードの差をはっきりと実感させる高級感
があり、銅メッキシャーシ特有の質感とともに、存在を強く主張する。
 左右シンメトリカルのデザインがすっかり目になじんだこともあり、落ち着いた印
象を与えてくれる。

Dレンジに限界を感じさせないSA−13S1

 SA−13S1の再生音を聴いて最初に浮かんだ言葉は「ゆとり」である。
 ダイナミックレンジは弱音とフォルテとともに限界を感じさせず、それに加えて空
間スケールのゆとりを確認することができた。
 SA−15S1も伸びのある見通しの良い音場空間を再現するプレーヤーだが、本
機はそれに加えてスケールの大きさがあり、マーラーの「復活」ではステージ後方の
奥行きまで見えてくるような遠近感がある。電源トランスの容量を思い切って増やし
たことや、トップカバーを含む匡体の随所に非磁性体のアルミと銅メッキシャーシを
配したことが功を奏したのだろう。
「メサイヤ」は合唱の響きに厚みがあり、通奏低音にはいい意味で芯の太さがある。
ジャズ・ボーカルもウッド・ベースに力感があって、生々しさの表現も得意とするこ
とがわかる。いずれのソースでも、声の太さや、重さのある弦が振動しているという
事実に気付かせてくれる実体感のある低音が鳴っている。

ステレオサウンド誌の記事より ↓↓↓