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♪そよ風にのって 1966.05
DANS LE MAME WAGON
作詞:漣 健児 作曲:E.Marnay,G.Magenta 編曲:宮川泰
演奏:レオン・サンフォニエット
録音:1966.02.21 文京公会堂
一般知名度 | 私的愛好度 | 音楽的評価 | 音響的美感 |
★ | ★★★★ | ★★★★ | ★★★★ |
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マージョリー・ノエル(本名フランソワーズ・ニヴォ)というフランス人の女性
歌手が歌いヒット。日本では弘田三枝子のシングル盤が代表格であった。
ザ・ピーナッツはLPアルバム用に録音をしただけであり、競作ではなかった。
同じ歌手の「春のときめき」もこのアルバムとシングルB面でカバーしている。
ザ・ピーナッツの場合は、漣健児さんの作詞では殆どヒットを目差したものでなく、
単に良い歌だから録音してみました、という扱いであることが多い。
お断りしておかねばならないのは、そもそもの出合いがアナログ・レコードであり、
それはCDとなって、他のアルバムと合成されたものを聴くのはまた別感覚となり、
随想の主体はレコード盤を基にしているということであります。
ですから、ちょっと違和感がある面が生じる事はしかたがないという前提でのお話。
このLPは宮川先生作曲のオリジナル曲が先頭と末尾にあり、即ち「愛は永遠に」と
「明日になれば(再録音)」との間に、10曲のヨーロッパ風味のポップス曲を網羅
するという趣向になっています。この曲は9曲目に入っていたものです。
キング・レコードはこの時期、ヨーロッパのヒット曲を積極的に取り上げています。
ポップス系の歌手を総動員して、その路線を開拓しており、さながらザ・ピーナッツ
は先陣を切って非常に多くのナンバーを歌っております。
そのような背景があることを念頭に置いて聴くとわかるようにも思えるのですが、
良く言うと達者な、悪く言うと慣れ過ぎているような感覚を抱くアルバムなのです。
ザ・ピーナッツの歌唱力やら宮川先生の音楽性からすると余りに余裕が有り過ぎる、
そんな気がしてしまうのです。手慣れているというか、すっと流しているというか。
もちろん、必ずしもそんな簡単ではないのだろうとは思うものの、苦労していないと
いう感覚があり、力作だったり大傑作だったりという範疇ではないと感じてしまう。
粒揃いの佳曲が集合しているので、つまらない曲は入っているわけではありません。
しかし、粒が揃っているけれども大きな粒がない。そんな感じなのです。
私のようなザ・ピーナッツ気違いには必須のアルバムであるにせよ、ピーナッツも
いいよね、という、あっさり風味のファンには是非ともという程ではないのです。
しかし、この安定感というか信頼性の高さという点ではかなりのレベルでありまして
ザ・ピーナッツ&宮川コンビの技は、まさに快適で上質な音楽を醸し出しています。
色々なこだわりを持たず、ヨーロッパ・ポップスを寛いで聴きたい向きには好適です。
こだわり、という言葉で、今日(大晦日)、唖然としてしまったことがありました。
ビデオやCDのレンタル・ショップに入ったことがなかったのですが、年末の買物に
付き合って、家内の案内でTUTAYAという店鋪を生まれて初めて覗いてみました。
うわっ、という程、沢山の映像物件と音楽物件が網羅されていました。
お客さんもたくさん入っておりまして、なかなかの盛況です。
おっ クラシックCDの棚もあるじゃん。今どき稀なことで……と、どんなCDが
あるのかな~と、すっかり借り入れモードの気分になったのが大間違いでした。
な……なんだこりゃ~……もう絶句もんです。ひ、ひどい、品揃え。
「のだめカンタービレ」関連のものが勢揃いしているのは、まあ御愛嬌なんですが、
とにかく、演奏者の選択にはなんのこだわりというより意識が感じられません。
よく通販とか廉価版とかを同じレーベルで揃えている商品がありますが、それ風です。
モーツァルトがブームだからというので沢山並んでいます。
しかし、そこには定評のある、とか、何らかの選出根拠がある演奏というものがなく、
ただ曲目を揃えたり、ひどいのはハイライト的なさわり集みたいなゲテモノが主流。
せめて、ワルターで揃えてみたというのなら、それはそれで一つの見識と思えるが、
なんだか無頓着な寄せ集めの雑居棚という感じで、これでは駅構内での安売りCDが
そのまま引っ越ししてきたようなもの。どうなってるのかなあ!!
結局、あれがあれば、という思惑のものは一切無くて、ゴミ箱を覗いた気分だから、
なにも借りませんでした。これでは、クラシックもほんの一部の人だけが聴くような
音楽にますますなってしまうのでしょうね。
たまたま現在売れ筋の商品がそういうものだということであってもレンタルとなると
意味が違うと思うのです。お店のセンスが問われます。
「レコード藝術」(音楽之友社)などの定評があるレコード雑誌での最近の推薦盤を
揃えるとか、なんとでもやり方があるだろうに、少しだけでも勉強してほしい。
先日、NHKテレビの番組で養老孟司さんが視聴者から寄せられた「生きる悩み」に
ついて蘊蓄を語るという趣向のものがあり、その中で「自分の個性を活かした仕事」
という悩みをテーマの一つに上げていたのですが、個性を活かした仕事を見つけると
いうことじゃなく、仕事の中で自然に個性は生きてくるものだ、という御託宣があり、
そうだなあ、と、感心してしまった。
私の時代は自分で仕事を選ぶなんて意識は毛頭なかったものでした。
お給料が頂けて、長く勤められる会社であれば良い、と、それしか思い浮かぶ余地も
無かったけれども、個性というものは大いに発揮出来たような気がするのです。
この「そよ風にのって」には、ザ・ピーナッツと宮川先生の強い個性を発揮すると
いう趣ではないという面でのさりげない良さがあると感じます。
そうでありながらも、しっかりと根付いた個性と持ち味がちゃんと存在しているので、
自然に独特の味わいが出ていて、ここでしか聴けない面が確かに存在するのです。
「音楽」の「楽」という文字に秘められた色々な意味合いがここにあると思います。
私にはとっても楽ちんに聴けるのです。
これが本当のキャリアというものではないでしょうか。
(2007.01.01記)