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白い小舟  1970作品
   作詞:山上路夫 作曲;沢田研二 編曲:クニ・河内
   演奏:オールスターズ・レオン

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★

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遂に「白い小舟」がデジタル化(CD化)される。
こんなビッグ・ニュースはそうそうありません。6月2日が待ち遠しいです。
ザ・ピーナッツの未デジタル化音源がCDで再リリースされるという場合。
次のように自分の中では分類されるのです。

1.まだ聞いたことのないノーマークの歌が聴ける
  これは主にアポロン音楽工業(株)制作のカーステレオ用音楽テープ用に
  渡辺プロ主体で作られたものと思われます。
  ザ・ピーナッツ現役時代にキング・レコードから出たものは、その殆どを
  リアルタイムで購入していたので、洩れは少ないと思うのです。
  しかし、自家用車を持っていなかった(当時は普通だが)ためにテープの
  購入は見送っていたからです。(8トラックの特殊仕様だったせいもある)
  なにかの折に歌そのものを耳にしたことがあっても、正規の録音ともなれば
  クオリティは非常に高いので、大いに期待出来る。
2.レコードも持っていない歌が聴ける。
  お小遣いの関係で、レコードが出ているのはわかっていても、涙を呑んで
  我慢していたものが発売されるケース。僅かながら、これもあります。
3.レコードは持っているが、盤の状態が良くない。
  安物時代のプレーヤーで聞いてしまったレコードはこうなります。
4.レコードを持っていて、盤質も聴く上で問題ではない。
  この場合は自分個人としては、CD発売は大事件ではない筈だが、やはり、
  レコード盤の入手は非常に難しく、手軽にみんなが買える状態が来ることが
  望ましい。

この「白い小舟」は、(4)のケースとなるわけです。
だから、大騒ぎする必要はないのですが、実は、この歌は大変に重要な歌だと
思うので、この歌がたとえ今の時代になってしまっても、多くの人の耳に届くと
いうことは重大な事件じゃないかと思う次第です。

この歌はとんでもない歌です。新しいジャンルを生成しているのです。
名付ければ「官能歌謡」「官能ポップス」と表現したいくらいです。
暗喩的ではありますが、それは性行為をイメージさせる試みに違いないのです。
セクシーな歌は数あれど、セックスの歌は聴いたことがありません。
淫らな言葉を羅列してしまったかも知れませんが、他に形容しようがないのです。

思い違いをされては困るのですが、淫靡でいやらしいような歌ではありません。
単に欲望のはけ口としての行為が淫行なのであって、そういう歌ではないのです。
愛しあっている男女の性愛は崇高なものです。
この歌は教会の宗教画のような清らかな趣さえあります。
ひたすら愛のエクスタシーに向かってうねっている小舟です。
こうして私もあなたもこの世に誕生したのです。人類愛の歌でもあります。

大海に喩えた男性に浮かんだ女性の白い裸身。それが揺れている小舟でしょう。
実に際どい綱渡りの歌です。間違えると卑猥な歌になってしまうのです。
このような愛の讃歌の荘重な歌をそのように歌える歌手が他に居るでしょうか?
ザ・ピーナッツだからこそ、これが邪念を感じさせずに聴けるのです。
実に凄いことだし、凄い作品だと思います。

ザ・ピーナッツには色気がなかった。
これが通説だったような気がしますが、この歌を聴いたら、そんな説は次元の低い、
薄っぺらな評論であったと確信するに違いありません。
なぜならば、色気のある歌い手と称された方の多くは、水商売風の装いをしたり、
年増の遊び人を演じてみたり、即ち、普通の男女の率直な結びつきが出来なかった
哀れな男女を歌い上げているのが、色気のある大人の歌手だったりするのです。
世間的にはアウトサイドの人種の歌をもっともらしく歌っているのです。

そういう不幸な環境を(殆ど身から出たサビですが)歌うことが男女の愛の深さを
感情込めて歌ったような錯誤で受けるようですが、そうでなくても辛い出来事が多い
この世の中にあえてフィクションのどうしようもない悲恋を有難く歌い、聴く必要が
あるのでしょう。全日本自虐沈鬱愛好協会会員みたいな馬鹿馬鹿しさです。
そういう歌はピーナッツには似合いません。そういう芸風じゃないのです。

本当の色気というものは、こういうものだ、わかったか!
そう高らかに歌いあげているような白眉の一曲です。
ザ・ピーナッツには色気があった。そう、それが正しい認識です。(笑)
(2004.3.29.記)

やっとCD化され、改めて聴くこの歌はやっぱり名曲だと惚れ直しました。
これだけ静かな曲ですと、些細なレコード・ノイズであっても気になります。
さすがにCDはそういう心配は無用で、レコードより、ややダイナミック。

この歌唱力には唖然とします。ピーナッツのキャラクター・イメージとあまりにも
異なるので埋没していたのでしょうか。それくらいの七色の声を操ってますね。

色気云々という書き方は、ちと恥ずかしいような感覚にもなっています。
そういう品のない表現自体がそぐわなかったかもしれません。
もし「ピーナッツ・レア・コレクション」から興味を持ったという人が現われたら、
これもまた素晴らしいことかも知れません。
(2004,6.5.追記)